殺虫剤の効果的な散布方法 -ミカンハダニと天敵に及ぼす殺虫剤の影響-

病害虫・雑草コラム

害虫防除のために散布したのに、散布前よりも害虫が増えてしまう現象、リサージェンス現象について、被害が深刻となっているかんきつ園でのミカンハダニを例に防止策を解説します。

リサージェンスの要因はミカンハダニの天敵阻害


【合成ピレスロイド剤散布とミカンハダニの増殖に関連する要因】

合成ピレスロイド剤散布とミカンハダニの増殖に関連する要因

ミカンハダニの異常多発現象(リサージェンス現象)の要因は、1983(昭和58年)年頃からかんきつ園で使用されるようになった合成ピレスロイド剤が天敵を長期間にわたり阻害するためであることがあきらかになっています。

ミカンハダニに合成プレスロイド剤を散布した場合の影響を調査した結果では、散布以外の要因である内的自然増加率や生態、寄生植物の葉内成分変化は、薬剤を施していない区域との差が認められませんでした。このことを見ても合成ピレスロイド剤がリサージェンス現象の要因となっていることがわかります。これは、同時に土着天敵の重要性と限界を認識させることにもなりました。

天敵への影響のない薬剤の選択と散布時期に注意


ミカンハダニを攻撃する天敵類には、静岡県での調査結果によると、カブリダニ類、キアシクロヒメテントウ、ハダニケシハネカクシ、ハダニアザミウマ、クサカゲロウなどが確認されています。これらの天敵類は、単位面積あたりの個体数が増加すると、死亡率も上昇する密度依存の傾向があります。ミカンハダニが一葉辺り、3〜5雌成虫密度に増えてくると、外部から飛来し、園内に侵入し、攻撃するようになるのです。

もし、天敵が侵入するような時期に殺虫剤が散布されると、天敵は死んでしまうため、ミカンハダニは天敵からの攻撃がなくなり、増え続けることになります。その増える期間は、散布した殺虫剤の天敵に対する残効性がなくなるまで続きます。

【ミカンハダニを攻撃する天敵(左からキアシクロヒメテントウ/ハダニケシハネカクシ/クサカゲロウ/ミヤコカブリダニ)】

ミカンハダニを攻撃する天敵(左からキアシクロヒメテントウ/ハダニケシハネカクシ/クサカゲロウ/ミヤコカブリダニ)

ミカンハダニのリサージェンスのメカニズムは?


では、ミカンハダニに殺ダニ活性がない剤(フェンバレレート)と活性がある剤(フェンプロパトリン)での増殖度合いにはどのような違いがあるのでしょうか。

まず、無処理区では、ミカンハダニ成虫が3〜5匹になると天敵類が侵入するので、寄生密度は天敵に殺され、低下しますが、薬剤処理区は天敵に対する残効性がなくなるまで増え続けることになります。

この際、殺ダニ活性がないフェンバレレートの場合、天敵に対する残効性が消失するのは散布後、約60日目頃でした。さらに天敵を殺す薬剤を散布すると、その新たな剤の残効期間まで天敵が活動できないため、ミカンハダニは増え続けることになります。しかし、ミカンハダニは無限に増えるわけではなく、葉が吸い尽くされて葉緑素が健全葉の約40%以下の状態になると雌成虫はその寄生葉から離脱するようになり、寄生密度は急激に減少します。

天敵に対する影響を考慮した薬剤の選択でリサージェンス現象を防止


【ハダニ(害虫)類リサージェンスのメカニズム】

ハダニ(害虫)類リサージェンスのメカニズム

一方、天敵に殺ダニ活性のあるフェンプロパトリンは散布のタイミングによって天敵を殺し、ミカンハダニを増やす可能性をもっています。特に天敵に残効性の長い剤は、リサージェンス現象を引き起こす頻度が高くなる傾向も確認されています。従って、リサージェンス現象は残効性が長い剤だけではなく、天敵に活性のある剤ならば、天敵の侵入のタイミングや散布回数の頻度により起こることになります。

近年、みかん園の害虫防除はチャノキイロアザミウマが主要害虫となり、防除回数が多くなっているため、これらの薬剤散布によってミカンハダニの天敵が殺され、夏ダニの寄生密度が異常な高密度になるリサージェンス現象を起こしている可能性があります。みかん園の防除薬剤については、ミカンハダニの天敵類に対する影響を明らかにし、薬剤の選択と散布時期に注意して防除を実施する必要があるといえるでしょう。

元静岡県柑橘試験場

古橋嘉一

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