トビイロウンカ、コブノメイガの生態と防除対策

病害虫・雑草コラム

東アジアを北方移動する間に日本にも飛来し、九州など西日本における水稲に被害を及ぼすコブノメイガ、トビイロウンカなどの飛来性害虫。どちらも加害が拡大すると大きな減収につながります。これら水稲の飛来性害虫について、鹿児島県農業開発総合センター 生産環境部の井上栄明部長にお話を伺いました。

近年、問題になっている水田の害虫について教えてください。


西日本で再び問題となっているのはトビイロウンカですね。11年ほど前から東南アジアで多発生傾向が続き、とりわけ2005年以降は九州各県でトビイロウンカによる坪枯れ被害が多発生するようになりました。

東南アジアからの飛来数は他のウンカに比べて少ないのですが、1世代ごとに10倍以上増殖し、3世代続けて増殖するので世代を追うごとに被害が発生しやすくなり、稲1株に500匹を超える密度になると坪枯れ被害を起こします。

鹿児島県では、ここ数年トビイロウンカ発生面積が全体の5割を超えており、7~8月の増殖勢が高いことも特徴として報告されています。

ウンカ以外にも、チョウ目のコブノメイガは被害が深刻だそうですね。


コブノメイガは西日本で、ここ4~5年ほど少発生傾向で推移していますが、1965年以降発生・被害が恒常化してきました。雄成虫の翅の前縁に黒褐色の毛塊があって、それがコブに見えることがその名の由来です。ふ化した幼虫は稲の葉をつづりあわせ、その内部で葉肉を食害しますが、食害部分が白くなるので多発生した場合は、圃場全体が白く変色し、大きく減収してしまいます。

九州では3世代発生を繰り返し、7月世代、8月世代、9月世代の3世代にわたって稲を加害しますが、特に8月世代の被害が深刻で、上位葉から止葉までの葉肉を食害するので登熟に影響を与え、未熟粒が増えることで大きな減収につながります。

【コブノメイガ成虫(雄)】

コブノメイガ成虫(雄)

【コブノメイガ成虫(雌)】

コブノメイガ成虫(雌)

【正常な幼虫(左)病死した幼虫(右)】

正常な幼虫(左) 病死した幼虫(右)

【7月(本田初期)食害(右)、出穂前の被害状況(中央は無処理区)(中央)、出穂後の被害状況(右)】

7月(本田初期)食害(右)、出穂前の被害状況(中央は無処理区)(中央)、出穂後の被害状況(右)

【鹿児島におけるコブノメイガの被害発生面積推移】

鹿児島におけるコブノメイガの被害発生面積推移

コブノメイガはどのように東南アジアから飛来するのですか?


コブノメイガは成虫の体長が9ミリほどの小型の蛾ですが、トビイロウンカやセジロウンカと同様に長距離移動を行うとして知られています。ベトナム北部から中国南東アジア域で、湿潤な気候の北上とともにベトナム北部から中国南部、中部、中北部へと移動し、その一部が梅雨前線に沿って発達する下層ジェット気流に乗って日本へ飛来するようです。

【1977年中国東半部でのコブノメイガ移動経路】

1977年中国東半部でのコブノメイガ移動経路

コブノメイガが発生しやすい環境や、被害を受けやすい要因などはありますか?


梅雨前線の動きが活発なときは、コブノメイガの飛来も頻繁になりやすい傾向にあります。また、もち米など登熟期が遅い品種、土壌にチッソ分が多く葉色が濃厚な圃場、比較的稲の株密度が高い直播水稲の圃場などでは、コブノメイガの被害を受けやすくなりますので注意が必要です。

コブノメイガやトビイロウンカの防除ポイントについて教えてください。


箱施用剤と本田防除の散布剤を組み合わせた体系防除が基本です。チョウ目に効果のある箱施用剤で7~8月世代のコブノメイガを抑え、箱施用剤の残効が切れた後は、トビイロウンカやコブノメイガなどに効果のある本田防除の散布剤を1~2回処理するのがポイントになると思います。

8月世代のトビイロウンカがふ化し、2~3齢幼虫となる時期は本田防除の重点防除時期です。8月お盆すぎごろがトビイロウンカの防除適期の目安となりますが、その年の飛来時期などによって適期は異なるので、地域の病害虫防除所等指導機関が発表する防除適期にあわせて本田防除剤を散布するようにしましょう。

鹿児島県農業開発総合センターの井上栄明部長








鹿児島県農業開発総合センターの井上栄明部長

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