果菜類の抵抗性ミナミキイロアザミウマの生態と防除対策
広食性の害虫で、多くの作物を加害するミナミキイロアザミウマはきゅうり黄化えそ病の媒介虫としても知られ、その発生と被害は全国的に拡大しています。さらに近年では多くの殺虫剤に対して抵抗性を獲得し、有効な薬剤が少ないことも問題になっています。抵抗性ミナミキイロアザミウマの生態と防除対策について、宮崎県総合農業試験場生物環境部の松浦明主任研究員にお話を伺いました。
ミナミキイロアザミウマによる被害の歴史と、宮崎県における発生状況について教えてください。
ミナミキイロアザミウマは1978年に宮崎県の施設ピーマンの圃場で発生し、これが国内で初めての確認とされています。宮崎県ではきゅうり、メロン、ピーマン、なすなどの果菜類で多く見られ、露地では厳寒期を除くすべての時期に、施設栽培に至っては年間を通して発生しています。とくに同様の施設が集合した地域では発生量が多く、標高の高い地域では比較的少ない傾向です。
【宮崎県総合農業試験場】
ミナミキイロアザミウマの特徴、生態、果菜への加害や栽培面での悪影響などについてご説明ください。
体長約1.2mmという微小害虫のため、早期発見が困難であることが特徴のひとつです。
また、成虫と幼虫は葉の上に存在する一方、卵は葉の中、蛹は土中に存在するため薬剤による防除が成虫と幼虫に限られ、防除をより一層難しくしています。
成虫の寿命に関しては、25℃で13日、15℃で36日というデータが得られています。
被害は主に、葉や果実へのケロイド状の食害で、樹勢低下や収量減少、さらには秀品率の低下を招きます。とくにきゅうりではきゅうり黄化えそ病を媒介する害虫として問題になっており、生産者の不安を増大させています。
【ミナミキイロアザミウマの幼虫】
ミナミキイロアザミウマが媒介するきゅうり黄化えそ病には、どのように対策されていますか?
2005年に初めて確認されて以来、現在では県内のほとんどのきゅうり栽培地帯で発生し、現状では発生株の早期抜き取りを徹底するなどにより、被害を抑えている状況です。
また当試験場ではきゅうり等のウイルス病診断が現場で迅速にできるようDIBA法*を改良し、診断キットとマニュアルを作製しました。これにより検定の迅速化、ひいては発生株の抜き取り作業の効率化に大きく貢献しています。
※DIBA法:抗原抗体反応を利用し、セルロース膜上に固定した抗原に抗体を結合させて発色させることで、短時間でウイルスを検出する方法。
【ミナミキイロアザミウマに食害されたなすとピーマン】
【きゅうり黄化えそ病に感染したきゅうりの葉】
殺虫剤抵抗性ミナミキイロアザミウマはいつごろから発生し、また、どのようなタイプの抵抗性が発達しているのでしょうか?
ミナミキイロアザミウマが初めて確認された当初から有効な殺虫剤は少なかったと聞いています。その後、合成ピレスロイド系やネオニコチノイド系など有効な殺虫剤が登場し、比較的防除可能な状況となったようです。
しかし、各地で使用されるにつれ、これら殺虫剤に対する抵抗性発達が報告されるようになってきました。宮崎県では2004年に成虫に対して行った検定により、ネオニコチノイド系イミダクロプリド、ジノテフラン、アセタミプリド、チアクロプリドの4剤に対する感受性低下が、さらに2011年には、ニテンピラム、クロルフェナピル、ピリダベン、スピノサド、エマメクチン安息香酸塩といった殺虫剤の感受性低下が疑われました。
ただし、エマメクチン安息香酸塩に関しては最近の調査で効果の高い事例が多く、感受性回復速度が速いのではないかと考えています。これら殺虫剤に対するミナミキイロアザミウマの抵抗性の作用機構はよくわかっていないのが現状ですが、スピノサドでは作用点変異と代謝・解毒が関与しているのではないかと考えられており、他の殺虫剤でも今後の研究が待たれています。
そのような抵抗性ミナミキイロアザミウマに対して、農家が実際に防除する際のポイントについてお聞かせください。
抵抗性が発達しており有効な殺虫剤が少ない状況ですので、施設栽培では、まず殺虫剤以外の方法でハウス内の密度をできるだけ低くすることが重要です。宮崎県ではハウス内に入れない対策として、開口部への0.4mm目合いの防虫ネット、紫外線カットフィルム、有色粘着板の設置を推奨しています。
そして最も大切なのは、低密度の段階から薬剤や天敵を組み合わせた防除を行い、その後の密度を低く抑え続けることです。また、定植前に発生源となる周辺の雑草防除を行い、定植後もハウス内の除草を励行するなど、環境整備も重要です。
【宮崎県における抵抗性ミナミキイロアザミウマの防除体系】
今後の抵抗性ミナミキイロアザミウマの防除において、どのような課題がありますか?
今後もミナミキイロアザミウマの各種殺虫剤に対する抵抗性の発達は、続きますので、前述のように各種防除技術を組み合わせた防除が基本になります。これらの防除法は一部の生産者の取り組みだけでは、十分な効果を発揮するのが困難です。そのため、より多くの生産者に取り組んで頂きたいのですが、防除に関する情報、例えば各種殺虫剤の効果、適切なローテーション散布法、天敵の活用といった情報をすべての生産者に十分に伝達できない現状が課題の一つと考えます。
簡単な解決法はありませんが、地道に啓発を行い、生産者全体に情報を行き渡らせていければと思います。
アファーム乳剤やアグリメックなど、アベルメクチン系に対する抵抗性の発達具合はいかがでしょうか?
当試験場での試験結果からも、アファーム乳剤は現在市販されているもののなかで最も効果が高い殺虫剤と考えています。生産者からの信頼は最も厚く、ほとんどの農家で使用されていますが、過去の調査では一時的に感受性低下の兆候が見られたこともあります。そのため、連用を避け必要最低限の使用にとどめるよう指導しています。
また、アグリメックも同様に高い効果が認められていますが、使用頻度が高まるにつれ、抵抗性の発達リスクは高まると思います。
どちらの剤にしても数少ない有効な剤ですので、防除体系の中の有力な選択肢として、粒剤や灌注剤による定植時処理や生物的防除および耕種的防除など複数の防除法と組み合わせることが大切です。
【宮崎県総合農業試験場による薬剤試験結果】
松浦明主任研究員