病害虫・雑草防除ガイド - 害虫と病気の話
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いもち病と薬剤耐性菌

 前回に続いてイネの病害防除に関連した話です。別の作物の病気をという声が聞こえてきそうですがもう少々我慢してお付き合い下さい。

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 最近では出穂前に本田で発生する病害虫の防除は箱粒剤施用によって行われることが多くなってきました。箱粒剤は有効成分がイネの根からも吸収される性質を持った薬剤が開発されたことによって生まれました。現在では優れた殺菌成分や殺虫成分が入った幾種類もの箱粒剤が登録されています。田植え前に薬剤を育苗箱に施用するだけで長期間病害虫を防除することができるようになり、蒸し暑い時期に田圃に入って汗を流しながら防除作業をする苦労から開放されたことが、多くの人から箱粒剤が歓迎されている理由だと思います。

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 ところが昨年、いもち病防除で少々やっかいな問題が起きていることが報告されました。2001年に、佐賀県の一部でカルプロパミド剤を箱施用した圃場で葉いもちが多発生したという報告です。問題となった圃場の病斑からいもち病菌を分離し、その性質を調べた結果、カルプロパミド剤が効果を示さない「低感受性菌」であることが分かり、そのためにいもち病の発生が増加したものであることも明らかにされました。学問的にはこの菌を「薬剤耐性菌」とするか「低感受性菌」とするかを決めることは難しいところですが、いずれにしてもこれらの菌が増加するとカルプロパミド剤の防除効果が低下することには違いはありません。

 過去にもいもち病で薬剤耐性菌の発生が大きな問題になったことがあります。1971年に山形県で我が国初めてのカスガマイシン耐性いもち病菌が発生し、また、1976年には富山県で有機りん剤耐性のいもち病菌が発生するなど各地で薬剤耐性菌が見つかり、いもち病を防除する上での大きな問題になりました。そのため多くの県で耐性菌密度の調査が何年も続けられ、耐性菌の発生状況に応じて問題となった薬剤の使用を中止し、新剤などの他の剤を使用する等の対策を講じることで次第に耐性菌の密度が減少し、現在ではこれらの耐性菌はほとんど問題視されなくなっています。

 長期残効性薬剤は確かに使いやすく防除効果が高い優れた防除剤です。しかし今回、防除効果が長期間持続するという長所がかえってマイナスに働く場合があることも教えられました。薬剤耐性菌が出現すると、その剤の効果が持続している数十日という長い間、耐性菌だけが増殖することができるため、耐性菌の感染による発病が進み、気が付いた時には大きな被害になってしまっていることになりかねません。したがって、箱施薬をしたからといって安心せずに圃場でのいもち病の発生状況に関心を持っている必要があります。

 

シンジェンタ ジャパン株式会社
開発本部 技術顧問
吉野 嶺一

2003年3月20日掲載

 シンジェンタでも佐賀県での低感受性菌発生の事例を重要視しています。早速、いもち病が多発生している各地の圃場から病斑を集め、いもち病菌を分離して、当社が販売あるいは原体供給しているいもち剤の効果が落ちることがないかを検討しました。その結果、デジタルコラトップ箱粒剤、デジタルコラトップアクタラ箱粒剤、アミスタープリンス粒剤などの箱粒剤はいずれも、普通のいもち病菌に対するのと同じ様に、カルプロパミド低感受性菌に対しても高い防除効果を示すことが確認されました。

 コラトップ剤の有効成分であるピロキロンは、カルプロパミド剤と同様にいもち病菌のメラニン生合成を阻害しますが、作用点が異なっています。コラトップ剤は過去20年あまりにわたって水面処理、箱施用されてきましたが、低感受性菌発生の報告はありません。しかしながら、低感受性菌の発生機作が完全には解明されておりませんので、今後の動向に注意し、適切ないもち病防除に貢献しなければならないと気をひきしめています。

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