なしの主要な病害と防除のポイント

病害虫・雑草コラム

なしは全国どこでも栽培され、われわれに身近な果物のひとつですが、病気に弱い作物であり、大きな被害を受けることも少なくありません。なしに発生する主要な病害について分かりやすく解説したいと思います。

1.ナシ黒斑病


ナシ黒斑病の病原菌は、特定のなしの品種にだけ作用する毒素を放出して病気を引き起こすという特殊な性質を持っています(写真1)。黒斑病が発病するのは「二十世紀」や「南水」などです(写真2~5)。それ以外の主要な品種では、全く発病しません。本病の多発要因としては、高温多湿な気象条件であり、冷夏長雨の年や窒素過多の肥培管理でも発病が助長されます。 ナシ黒斑病に最も弱い「二十世紀」では、果実に2回の袋掛けを行います。果実袋を掛けることによって、病原菌から果実を守るためです。また、袋掛けにより、果実の外観を向上させ、薬害の発生などからも保護されています。

【写真1:病原菌の分生子】

病原菌の分生子

【写真2:葉の病斑(二十世紀)】

葉の病斑(二十世紀)

【写真3:幼果での発病(二十世紀)】

幼果での発病(二十世紀)

【写真4:収穫直前の果実での発病(二十世紀)】

収穫直前の果実での発病(二十世紀)

【写真5:果実の病落下被害(二十世紀)】

果実の病落下被害(二十世紀)

近年では、「二十世紀」を品種改良し、独特の味や美しい外観を残したまま、黒斑病に強くするという試みに成功し、新品種が誕生しています。こうして生まれた「ゴールド二十世紀」は、黒斑病に罹らない「二十世紀」ということで、従来の薬剤散布回数の半分で栽培することが可能になりました。

【写真6:越冬伝染源となる側枝表面の枝病斑】

越冬伝染源となる側枝表面の枝病斑

【写真7:越冬伝染源となる罹病芽と健全芽】

越冬伝染源となる罹病芽と健全芽

ナシ黒斑病の防除のポイントは、まず徹底的に越冬伝染源を除去することです。病原菌の越冬伝染源としては、側枝などの表面に形成された枝病斑(写真6)、短果枝の腐れ芽(写真7)、地表面に残った罹病落葉などがあります。薬剤防除は摘果期~小袋掛け期と梅雨期を特に徹底し、7~10日間隔で異なる系統の薬剤をローテーション散布します。また、収穫後の薬剤防除を徹底することで、越冬伝染源を少なくし、結果的に翌年の発病を少なくすることが可能になります。

2.ナシ黒星病


ナシ黒星病は、黒斑病と違って品種間差異はあるもののほとんどの品種で発生します。最も発病しやすいのが、栽培面積の大きい「幸水」であり、防除上最も重要な病害にあげられます(写真8)。

【写真8:果実の発病(幸水)】

果実の発病(幸水)

病原菌の越冬伝染源は、腋花芽基部の病斑(写真9)と地表面に残った罹病落葉であり(写真10)、なしの開花期~落花期を中心に胞子が飛散します(写真11)。

【写真9:越冬伝染源となる腋花芽基部の病斑】

越冬伝染源となる腋花芽基部の病斑

【写真10:越冬伝染源となる罹病落葉上の偽子のう殻】

越冬伝染源となる罹病落葉上の偽子のう殻

【写真11:病原菌の子のう胞子】

病原菌の子のう胞子

春先に葉や幼果に発病すると、病斑部分にスス状の分生子を無数に形成し、これが2次伝染を繰り返します(写真12~14)。

【写真12:葉の発病(春型病斑)】

葉の発病(春型病斑)

【写真13:幼果の発病(二十世紀)】

幼果の発病(二十世紀)

【写真14:病原菌の分生子】

病原菌の分生子

5月以降、気温が高くなると葉や幼果での発病はやや停滞しますが、梅雨に入ると再び降雨とともに発病が増加します。収穫後には葉に秋型病斑と呼ばれる薄墨状の病斑を多数形成し、この病斑を形成した罹病落葉が越冬して翌年の伝染源になります(写真15)。
ナシ黒星病の防除のポイントは、開花始め~落花期にEBI剤(エルゴステロール生合成阻害剤)の散布を徹底することであり、この期間にEBI剤を1~2回散布することで高い防除効果を発揮します。その後は、発病の程度によって、EBI剤を1~2回追加散布し、他系統の薬剤とのローテーション防除を行います。

【写真15:葉の発病(秋型病斑)】

葉の発病(秋型病斑)

3.ナシ輪紋病


ナシ輪紋病は無袋栽培の赤ナシなどを中心に発生する病害であり、収穫後に追熟するセイヨウナシでは最も被害の大きい病害です(写真16・17)。生育期間中の発病はもちろんのこと、出荷後に市場などで発病するため、産地のイメージダウンにつながります。

【写真16:果実での発病(ゴールド二十世紀)】

果実での発病(ゴールド二十世紀)

【写真17:果実での発病(豊水)】

果実での発病(豊水)

輪紋病は、枝や幹にも発病し、独特のイボを形成することから、別名イボ皮病ともいいます(写真18・19)。この枝幹部のイボが越冬伝染源となり、数年間にわたってイボの周辺部に胞子を形成し、胞子は風雨によって分散します(写真20)。胞子飛散のピークは6~7月の梅雨期に当たりますので、この時期の防除を徹底する必要があります。

【写真18:枝表面の病斑(いぼ皮病)】

枝表面の病斑(いぼ皮病)

【写真19:徒長枝での発病(新高)】

徒長枝での発病(新高)

【写真20:病原菌の柄胞子】

病原菌の柄胞子

防除のポイントとしては、薬剤防除だけでは完全には防ぎきれないので、休眠期のイボ多発枝の除去や病斑部へのペースト剤の塗布を徹底し、越冬菌密度を下げるよう努めることです。また、袋掛け栽培を取り入れるなど耕種的な防除対策を取ることも必要です。

鳥取県園芸試験場 研究員

安田 文俊

シンジェンタの防除薬剤


シンジェンタでは「なし」の病害に対する薬剤としてアミスター10フロアブルユニックス顆粒水和剤47などがあります。適用の内容など、それぞれの詳細については製品情報ページをご覧下さい。

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