病害虫・雑草防除ガイド - 害虫と病気の話
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ダイコン白さび病

 今回はこれから迎える秋から冬の代表的な野菜であるダイコンの病害についての話です。
 ダイコンは世界的に古くから栽培・利用されてきた野菜で、その起源は中央アジアから地中海沿岸であろうと考えられています。日本にもずいぶん古い時代に中国から渡来したらしく、日本書紀の中にも「オホネ」という名前が出ていると、ものの本には書かれています。また、江戸時代の天明の大飢饉の折の悲惨な状況を綴った八戸聞見録には、大豆・稲・粟・稗・蕎麦がいずれも実らなかったひどい状況の下で、「…大根蕪は相応の作なれとも次第に盗み取られて九月中旬まてに残らず掘取られたり…」、と飢えをしのぐ貴重な糧となっていたことが記録されています。食生活の変化に伴って生産が減少する傾向にはありますが、現在でも、ダイコンはわが国の野菜の中では生産量が第一位にあり、秋刀魚の塩焼きやおでんあるいは漬物には不可欠の材料として、大切にされている野菜であることには変わりはありません。

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写真1:根部のわっか症

 このダイコンで問題になっている症状があります。1990年頃から根部に黒いリングができているダイコンが各地で見付けられるようになり、問題視されて「わっか症」と命名されました。収穫期近くになって地上に露出した根部の表面に直径2~3mmから1~2cm程度の黒いリングができる症状です(写真1)。病変部の深さは表面から1~2mmといいますから根の内部にまで影響することはほとんどありませんが、商品としての価値には影響します。この症状が発生する原因はまだ完全には分かっていませんが、ダイコン白さび病菌が根部に感染することによっても、わっか症が引き起こされることが明らかにされています。

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写真2:葉での白さび病の病斑

 ダイコン白さび病は葉・茎・花柄に発生することが知られていますが、どちらかというと春先の雨が多い時期に多く発生し、秋ダイコンでは発生が少なくて防除の対象になっていなかった様子です(写真2)。しかし、食用に供する根の部分に発病するとなると状況は変わります。白さび病の発生生態を理解して防除する必要が出てきました。

 白さび病の病原菌はアルブゴ マクロスポラという菌類です。この菌はうどんこ病菌やさび病菌と同じ様な絶対寄生菌で、生きた細胞・作物体からしか栄養が摂れず増殖できません。畑に残された被害植物の組織内で生存している菌糸や卵胞子が伝染源となって、新しい発病が始まります(写真3)。降雨などによって水分が供給されると、卵胞子は発芽して遊走子という水の中を泳ぎまわる胞子を形成し、これが葉に固着・発芽し、気孔から侵入して葉の裏面に乳白色の小さな病斑を作ります。この病斑では分生子(胞子のう)と呼ばれる白色粉状の胞子が作られて飛散し、中から遊走子が泳ぎ出して感染が拡がります(写真4)。胞子のうの発芽温度は0~20℃、最適温度は10℃とされており、比較的低い温度で発病が起こります。写真を提供して頂いた神奈川県では、葉での発病が10月下旬から11月に始まることが観察・報告されています。

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    写真3:白さび病菌の卵胞子

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    写真4:白さび病菌の分生子

 残念なことに、シンジェンタにはダイコンの白さび病やわっか症防除に使用できる殺菌剤はまだありませんが、生産地の要望に応え防除剤を登録できるように現在努力している最中です。 (写真提供 神奈川県農業総合研究所 植草秀敏氏)

 

シンジェンタ ジャパン株式会社
開発本部 技術顧問
吉野 嶺一

2003年8月20日掲載

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