食葉性のイチモンジセセリ(イネツトムシ)-遅植え、多肥、直播栽培で大発生!

病害虫・雑草コラム

5月、水田では「イネツトムシ」と言われるイチモンジセセリの幼虫が発生します。多発時には葉のほとんどが食害され、深刻な被害を及ぼします。イチモンジセセリ の生活環、発生予察、防除法を詳しく見ていきます。

5月後半、水田に大発生するイネツトムシ=イチモンジセセリの幼虫


毎年春のモンシロチョウやアゲハチョウ発生にやや遅れて、水田ではイチモンジセセリが発生します(写真1)。稲が分けつし始める5月後半以降になると、葉が引き寄せられ食いちぎられている株が散見されます(写真2)。また7月に入ると、複数株の数葉を寄せ集めてつづっている紡錘状のツトが目立ってきます(写真3)。

【写真1:イチモンジセセリの成虫】

イチモンジセセリの成虫

【写真2:1世代幼虫による被害】

1世代幼虫による被害

【写真3:葉をつづったツト】

葉をつづったツト

それらの正体は、頭部前面が扁平楕円状で緑色をした体長3cm余りのイネツトムシと言われるイチモンジセセリの幼虫で(写真4)、多発時には(写真5)葉のほとんどが食害され、残された中肋(葉の主脈)が隣り合った株どうしで繋がっていることがあります。このような被害状況からイネツトムシとも呼ばれています。地域によってはカラゲムシ、チマキムシ、ハコロゲ、ハマクリともいわれています。また夏季高温多照年には特に多発するので、豊年虫とも言われています。

【写真4:イチモンジセセリの幼虫(イネツトムシ)】

イチモンジセセリの幼虫(イネツトムシ)

【写真5:被害の比較(右側は育苗箱剤を施用した健全な稲、左側は育苗箱剤を施用しなかった稲)】

被害の比較(右側は育苗箱剤を施用した健全なイネ、左側は育苗箱剤を施用しなかったイネ)

イネアオムシ(フタオビコヤガの幼虫)も発生


イネ科のマコモでは1枚の葉を折り曲げて三角状のツトを作ります。この頃に発生するイネアオムシ(フタオビコヤガの幼虫)は1枚の稲葉を折り重ねて小さなツトを作りますが、イネツトムシのツトよりも小さく、しかも蛹化前の終齢幼虫がツトをつくって、それをちぎり落として水面に浮かんでいることが多いので区別できます。

この害虫は、分類学的にはチョウ目(鱗翅目)セセリチョウ科に属しており、中国名は稲包虫、英名はrice skipperといわれています。英名は成虫が葉上を飛び跳ねているように見える習性から名付けられたと思われます。

(1)イチモンジセセリ の生活環


イチモンジセセリは幼虫で越冬し、5月に越冬した世代の成虫が出現します。そして早植えの稲葉に第1世代卵を産付、ふ化した幼虫が葉を食害します(写真1)。7月下旬になると成虫が出現し8月上旬まで産卵します。この第2世代幼虫が盛んに稲を暴食するのです。

第2世代成虫は8月下旬から9月に現れ産卵します。また一部の成虫は南方に群飛する移動現象が知られています。9月の気温が高いと、10月以降に第3世代成虫が発生します。9月以降に発生した幼虫が越冬しますが、北は福島県南部の太平洋沿岸まで越冬が可能です。

(2)被害の多発地帯


例年、稲、麦の二毛作地帯で6月下旬以降に移植する遅植地帯や直播稲の場合に、葉が緑色で柔らかく被害は多く、東北地方の南部にまで発生が及びます。葉が繁茂する飼料用イネでも多肥(窒素)栽培すると多発します。5月前半以前に移植する栽培型ではあまり問題になりません。

(3)発生予察


気象的には6月中旬〜7月上旬が高温多照の年に、8月に多発します。予察のために5月中旬、花のにおいの香料を誘引源にした、濃い青色の成虫捕獲器を水田に設置し(写真6)、6月前半までの越冬世代成虫の捕獲数が20個体以上、第1世代(7月中)成虫の捕獲数が50個体以上になった場合、8月上旬に幼虫調査を行います。中齢幼虫(体長約2cm)が稲株当たり0.5頭以上見られる場合に被害が出ますので、8月上旬の防除が必要になります。

(4)防除法


多発地では育苗箱施用剤を処理してください。その他の地域では多発予察後8月上旬に適期防除すれば抑えられます。10アール当たり25リットル散布の薬液少量散布(写真7)は環境保全型で防除効果も高く、イネアオムシ、ニカメイチュウ(写真8)、カメムシも同時防除できる薬剤がありますので、それらを使用して効率的に防除することをお薦めします。

【写真6:水田に設置した成虫捕獲器】

水田に設置した成虫捕獲器

【写真7:ブームスプレイヤー】

ブームスプレイヤー

【写真8:ニカメイガ】

ニカメイガ

独立行政法人農業生物資源研究所
研究企画官

平井一男