カイガラムシ類の生態と防除対策

病害虫・雑草コラム

近年、果樹園や茶園でカイガラムシ類の被害は増加傾向にあります。カイガラムシの発生時期は気温から予測することが可能です。カイガラムシの生態と効果的な防除対策についてご紹介します。

増えるカイガラムシの被害


カイガラムシは昆虫の分類上、半翅目に属しており、同じ目にはアブラムシやウンカ、ヨコバイ、セミなどがいます。カイガラムシは産まれた後、移動できるのは数時間で一度定着すると足もなくなり一生同じ場所で生活しているマルカイガラムシ類のようなものもあれば、コナカイガラムシ類のように一生を通じて移動できるものもあります。

カイガラムシ類は果樹や庭木などの樹木の重要な害虫として知られています。お茶のクワシロカイガラムシは害虫の中で、その被害が最も問題になっている害虫です。2000年に農水省果樹試験場が行った各県(常緑果樹対象)に対するアンケート結果でも、アカマルカイガラムシやナシマルカイガラムシ、ヤノネカイガラムシが増加傾向にあると回答している県がありました。

また、当社が行ったミカン農家に対するアンケートでは、33人の回答者のうち30人は最近カイガラムシが増えていると回答していました。果樹園や茶園でのカイガラムシの防除対策について考えてみましょう。

【クワシロカイガラムシ雌成虫】

クワシロカイガラムシ雌成虫

【ヤノネカイガラムシ寄生果実】

ヤノネカイガラムシ寄生果実

カイガラムシの発生時期の予測


カイガラムシの発生春先の気温から予測することが可能です。かんきつ類を加害するヤノネカイガラムシの第一世代1令幼虫の発生は3月の平均気温と関係が深く、1令幼虫の初発生日はY=60.4-4.41X(Yは4月25日を起点日とした日数、Xは3月の平均気温)で計算できます。ある年の静岡県清水市の平均気温は12.3℃でした。予測式に3月の平均気温を代入すると、Y=60.4-4.41x12.3となり、Yは6.16です。つまり、4月25日から6.16日(約6日)後の5月1日に幼虫が発生してくることになります。初発生日の平年値は5月13日ですので例年より12日はやまる予測結果でした。

4月に入ってからの気温は平年より高めに推移しているので、発生日はさらに早まることが予測されます。このように、カイガラムシ類の発生は温度によってその早晩は大きく左右されています。カイガラムシ類の発生が例年より早まる可能性があれば、防除時期を早める必要があります。

カイガラムシの防除が難しい理由と防除対策


カイガラムシの防除がむずかしいのは、その名前が示すように卵や虫体が蝋物質を中心とした被覆物質によって覆われていることです。そのため、薬剤を散布しても被覆物によって遮断され薬液が虫体にかかりにくいことがあげられます。

また、成虫やその卵嚢から生まれてくる幼虫は発生が始まってから順次発生し、その発生期間は長いものでは数週間に及ぶものもあり、いろいろな発育ステージの幼虫が混在していることになります。以上のようなことから、カイガラムシの防除には、幼虫の発生時期を的確に把握して、虫体に被覆物が十分に形成しない幼虫がピークになる時期に防除を行うことが大切となります。

クワシロカイガラムシの場合、幼虫の発生ピークから1-5日後、ヤノネカイガラムシの場合、幼虫発生のピークから約2週間後が防除適期とされています。このようにカイガラムシの防除はその種類によって防除時期は異なるので、防除しようとするカイガラムシの生態をよく知ったうえで防除を行うことが大切です。

 

【ヤノネカイガラムシ未成熟成虫】

ヤノネカイガラムシ未成熟成虫

シンジェンタ ジャパン株式会社
開発本部 技術顧問

古橋 嘉一