ばれいしょの主要害虫の特徴と防除ポイント-北海道の事例
畑作害虫の防除では、「被害予測して密度管理、農薬の適期・適部使用」が“上手な防除”と言えます。ここではばれいしょに発生する主要害虫の特長と防除ポイントを解説します。
ばれいしょに葉発生するアブラムシ類
|特徴と生態:ばれいしょのアブラムシ類
ばれいしょでは、主として、ジャガイモヒゲナガアブラムシ、モモアカアブラムシ、ワタアブラムシなどが見られます。温暖期は雌だけが胎生で増殖するため、増加速度は非常に速いのが特徴。北海道のばれいしょ圃場では、ジャガヒゲは6月上旬から、モモアカは6月下旬ころ、ワタは7月上旬ころから寄生開始。また、これらの種類の有翅虫は、それぞれ7月中旬、8月上旬、7月下旬ころから出現し始めて飛翔・移動しますが、出現時期には年次変動があります。
葉巻病(PLRV)は、ジャガヒゲ・モモアカによって永続的(ウイルス獲得・接種に1時間ほど要するが、生涯、伝染できる)に、Yモザイク病(PVY-T)はモモアカ・ワタによって半永続的(獲得・接種はより短時間だが、伝染は数株まで)に伝播されます。
|アブラムシ類のによるばれいしょの被害
アブラムシの吸汁害によって減収することは極めてまれです。減収程度は保毒種いもを用いた場合に大きく、葉巻病の場合、重量で50〜75%の損失に。生育中に感染した場合には、減収程度は比較的軽く済みます。
|ばれいしょ「アブラムシ」の豆知識
媒介アブラムシの有翅虫盛期を意識して防除薬剤を考えましょう。以下はばれいしょでに加害するアブラムシ別発生期と播溝施用の効果(モデル)です。
【アブラムシ発生時期】
【播溝施用剤持続期間】
農薬の種類によりアブラムシへの効果はさまざまです。以下は茎葉散布剤の特徴とその効果です。
【アブラムシ発生時期】
薬剤適性:○有効 △やや弱い ×無効
薬剤系統名 | 特徴 | 評価 |
---|---|---|
有機リン | 即効的で残効期間は短かい、浸透・移行性は薬剤による | ジャガイモヒゲナガアブラムシ ・・・○ モモアカアブラムシ・・・・・△~○ ワタアブラムシ・・・・・・・・△ |
合成ピレスロイド剤 | 有機リン剤よりもやや遅効的で 残効期間は長め、浸透移行性なし | ジャガイモヒゲナガアブラムシ・(△~○薬剤による) モモアカアブラムシ・・・・・・○ ワタアブラムシ・・・・・・○~×(抵抗性系統) |
ネオニコチノイド剤 | 残効期間は長め、 浸透移行性あり | ジャガイモヒゲナガアブラムシム モモアカアブラムシ・・・・・・○ ワタアブラムシ・・・・・・・・○ |
※ワタアブラムシの合成ピレスロイド抵抗性系統は、北海道ではウリ新ばれいしょで散発しています。
|防除のポイント:採種圃では、塊茎の外皮形成後、早期に茎葉を除去しましょう!
主な保毒源は、種いも更新率の低い一般圃場と想定され、その5km以内の採種圃場は有翅虫の移動による感染の可能性があります。採種圃場のウイルス感染率は、保毒株率およびアブラムシ密度が高い一般圃場に、より近い場合に高くなります。
ウイルス病対策の基本は、保毒源の除去、および媒介アブラムシの密度低下。これらは、採種圃場の個別管理だけでは充分に対応しきれないので、公的な管理および地域内の連携が必要となります。
【一般圃場の管理】
- 無病種イモの短期更新
- アブラムシ密度の低下維持(とくに7月中旬〜8月中旬の有翅虫)
【採種圃場の管理】
- 初期アブラムシ密度の低下(発病株の混入を想定)
- 発病株の抜き取り
- 有翅保毒虫(7月中旬以降に飛来)による感染率抑制
採種圃場では、7月中旬以降に飛来する有翅保毒虫による感染率抑制のために、殺虫剤散布が必要です。その場合、殺虫剤散布にもかかわらず、1頭の有翅虫により1株は感染してしまうので、飛来数が多い場合にはその効果が低くなります。そのため、塊茎の外皮形成後、早期のうちに茎葉を除去することで、ウイルスの感染率を下げるようにしましょう。
ばれいしょに発生するナストビハムシ
|特徴と生態:ばれいしょのナストビハムシ
幼虫は、5mmほどの白く細長いウジ状で、塊茎の表皮付近に食入。6月中旬ころから、圃場外の越冬成虫が少しずつ飛来して、6月下旬までばれいしょの茎地際部に産卵。雑木林に近い圃場で多発する傾向があります。成虫は3mm程度の青黒い甲虫で、葉の表面を点状に食害し、飛び跳ねます。
|ナストビハムシによるばれいしょの被害
表皮下3mm深までの多数の小斑痕が残るため、外観が悪く、生食・加工用では皮むきを厚くする必要があります。
【ナストビハムシ】
h3>|防除のポイント:6月中下旬に産卵前の成虫を防除しましょう!
葉の食害状況を見て、6月中下旬に2回の散布により産卵前の成虫を防除。常発地では、植付け時に土壌施用粒剤を処理します。
ばれいしょに発生するネキリムシ(タマナヤガ)
|特徴と生態:ばれいしょのネキリムシ(タマナヤガ)
タマナヤガの成虫は5月下旬〜6月上旬に大陸から飛来して、日本海側の裸地ぎみの圃場で幼植物の葉裏に産卵します。幼虫は、夜間に茎を地際から切り倒し、土中で葉を食害。老熟幼虫は、てんさい・だいこん・ばれいしょの根茎部に鼠害のような大食痕を作るため、ケラの食害とされることもあります。
|ネキリムシ(タマナヤガ)によるばれいしょの被害
培土が不十分な場合、塊茎が一部露出したところから潜入食害します。
【ネキリムシ(タマナヤガ)】
|ポイント:ベイト剤(毒餌)での誘殺、接触効果のある薬剤散布がよいでしょう!
成虫の飛来は年次変動が大きいので、注意報の情報を利用してフェロモントラップや誘蛾灯についての調査情報を活用しましょう。着地する圃場は決まっていない、6月下旬ころの「苗の切倒し」に注意し、圃場内に生雑草を集積し、その下に集まる幼虫をチェック。ベイト剤(毒餌、降雨で分解しやすい)を用いて誘殺するか、接触効果のある薬剤を夜間散布します。
※記事監修:鳥倉英徳(元・北海道病害虫防除所長)