GAPの農場評価は生産者の社会的責任の検証
~8月27日、28日開催「農場実地トレーニング」~

2015/09/30(水)

8月27日、28日の2日間、茨城県つくば市の一般社団法人日本生産者GAP協会主催による「農場実地トレーニング」を取材しました。
これは、「日本GAP規範に基づく農場表評価制度(GH評価制度)」に基づいた評価実習です。
同協会が主催する「GAP実践セミナー」、または都道府県主催の「GAP指導者養成研修会」を終了し、GLOBALG.A.P.認証に通じる国際レベルのGAP知識を学んだ方を対象に開かれました。
GAP評価員による農場評価とは何かを学び、審査を模擬体験する2日間を取材し、GLOBALG.A.P.認証がどのように行われ、生産者はどのように対応することが求められているのかをまとめました。


農場評価の目的は、リスクを見つけ出し、管理すること

GLOBALG.A.P.(以下、GAP)(農業のグッド・プラクティス)は、適正農業規範に基づいて適正な農場管理を行うことで、GAPにおける農場評価(国際標準はGLOBALG.A.P.認証)とは、規範に基づいて適正に農業を行っているかどうか、あるいは社会的責任を全うしているかどうか、を検証するものです。
評価員は農場における財務以外の管理上の問題点を指摘し、なぜ問題なのか、どの程度問題なのか、どこに改善の余地があるのかを探り出します。
そして、それらの結果を受け、生産者はどうすれば良いのかを模索し、改善へとつなげていくのです。
さらに、その結果を地域の生産者部会などで共有することで部会の規範や規則作りにも役立つことが期待されます。
その際、問題点として指摘されるのは、法令違反など明らかな違反があるものだけではありません。
環境汚染や食品汚染の要因となるもの、いわゆる危害要因を探り出すことも重要です。
危害要因が環境や人、農産物にどの程度、悪い影響を与えるのか、そして、どのくらいの確率で発生するかの可能性も探ります。
これがリスクとよばれるものです。

リスクがゼロになることが理想ですが、実際には不可能です。
たとえば、無農薬を徹底している農場であっても、ドリフトなどによる汚染も想定され、残留農薬の可能性がゼロとは言い切れません。
ただし、リスクをゼロにできなくても、周囲からのドリフトの影響を受けないような対策を施すことで、リスクを回避することができます。
これをリスク管理と呼びます。
GAPの農場評価は、リスクをゼロにすることが目的ではなく、科学的な知見に基づいて、危害要因をできるだけ取り除き、管理するために行われます。
そして、その管理は常にブラッシュアップし、向上させていく必要があります。


インプットとアウトプットをもれなく認識しているかどうかがポイント

農場のリスクを認識するために、評価員は農場を巡回して、経営全体の中でどこに問題があるかをヒアリングします。
評価のポイントの1つは農場へのインプットとアウトプットを農家がどれだけ認識しているかという点です。
土壌改良剤、堆肥等の有機物や化学肥料、化学農薬、種苗、生産資材など農場に持ち込まれるもののリスクが把握されているか。
そしてそれらのアウトプットを認識しているかどうかを評価します。
アウトプットは物だけではなく、生産された農産物や、生じた廃棄物など農業活動から発生するものをもれなく認識しているかどうかも評価のポイントになります。
その上で、農場の設備や施設、構造、農薬や肥料の管理など固定的な物の安全性が保障されているかどうか、生産工程(プロセス)の安全性は確保されているか、そして、収穫物の安全性や、衛生管理は保障されるかの観点でのチェック項目をリストに基づき、ヒアリングを行い、確認し、評価をしていくのです。
評価は、項目ごとに1~4段階で行い、数が大きくなるほど、リスクが大きくなります。


生産者の行動が問われるヒアリング

  • ヒアリングは、Yさんの作業場をお借りして行いました

    ヒアリングは、Yさんの作業場を
    お借りして行いました

農場実地トレーニングでは、モデル農場として茨城県のY農園を訪れ、「日本GAP規範に基づく農場表評価制度(GH評価制度)」(以下、GH評価制度)に基づき、評価実習が行われました。
Y農園は、生産者のYさんと妻、長男、パート従業員の4人が主な農業従事者です。
Yさんは数年前にGAPの講習会に参加したものの、認証は受けていません。
「認証の重要性は理解しているものの、実際にはなかなか実践ができません」ヒアリングが始まる前にそう苦笑していました。
ヒアリングは、イエスかノーかを問うのではなく、生産者自身がどのような行動を行っているかを具体的には生産者の動作まで見えてくるように聞き出すことも評価員に求められる能力です。
たとえば「農場管理の実施内容を記録する仕組みが確立されており、常に最新の記録がわかるように保管されているか」というヒアリング項目に対して、Yさんは作業日誌を記入していると答え、それを評価員に提示してくれました。
また、これとは別に長男も作業記録を記入していることもわかりました。
しかしながら、2人とも作業内容が書いてあるのみで、農薬や肥料の使用状況などの詳細の記録は明記されていません。

  • リストに沿ってヒアリングを行っていきます

    リストに沿ってヒアリングを
    行っていきます

  • 農業用の使用済み廃プラスチックを回収見本に沿って廃棄していると見本票を提示しながら説明してくれました。

    農業用の使用済み廃プラスチックを
    回収見本に沿って廃棄していると
    見本票を提示しながら
    説明してくれました。

  • 自宅の敷地内にある農薬庫の前で管理方法等をヒアリングしました。

    自宅の敷地内にある農薬庫の
    前で管理方法等を
    ヒアリングしました。

  • 堆肥置き場にも案内していただだきました。

    堆肥置き場にも案内して
    いただだきました。

さらに本来であれば圃場ごと、作付した作物ごとに記録が行われなければなりませんが、その明確な記載もありませんでした記録は行程を記載しているかどうかだけが重要なのではなく、その内容が問われるのですが、十分とはいえない結果でした。
そのため、評価は4段階のうちの2となり、情報を共有し、より詳細な記録をしていく点が改善すべき課題として指摘されました。

  • ヒアリング後には、チェックリストを元に評価していきます。

    ヒアリング後には、チェックリスト
    を元に評価していきます。

  • 作業記録はどうつけているか、実際に見せてもらいながらヒアリングを行いました。

    作業記録はどうつけているか、
    実際に見せてもらいながら
    ヒアリングを行いました。

またヒアリングでは危害要因があることを生産者自身が想定しているかどうかという視点も大切です。
たとえば、「緊急事態が発生した際の対応手順や連絡先の一覧等を文書化しているか」という項目に対しては、何かあればJAに連絡することをYさんは心がけていると答えました。
しかし、JAの連絡先は誰にでもわかる場所に掲示されておらず、農場で働く人たちの間で情報共有がされていませんでした。
さらに、1人で作業中に事故に遭った場合、携帯電話で連絡を取り合うという暗黙のルールはあったものの、それも文書化はされていません。
そもそもYさんも長男も緊急事態が起こることを想定していなかったのです。
評価は、3段階のうち最もリスクの高い3という結果となり、緊急事態を想定してその対応を話し合い、文書化し、誰でも見られる場所に提示しておくことの重要性が指摘されました。


GAPは生産者のための教育システム

このように、GH評価制度による農場評価は、合格、不合格を判定するものではありません。
最大の目的は、生産者が自らリスクに気づき、改善していくことです。
そしてGAP評価員の役割は農場の問題を見つけ、生産者が解決をするための支援をすることにあります。
そう考えるとGAPによる農場評価は生産者のための教育システムであるといえるでしょう。
農場トレーニングインストラクターを務めた一般社団法人日本生産者GAP協会の田上隆多さんは、こう話します。
「GAPに取り組むことで、生産者の収入が上がったり、農産物の単価が上がったりといった直接的な利益に結びつくわけではありません。
しかし本気で取り組むことで、農場経営が健全になることに気づき、認証を受ける、受けないに関わらず、GAPのチェックリストを重視して経営を続ける方もいます。
GAPは、生産者が社会的責任に基づいて生産するための規範であり、倫理であると思うのです」農場評価を受け、GAP認証を取得しても目に見える直接的な利益には結びつきませんが、消費者がGAP認証を持つ農場を信頼できると認知し、その農場で生産される農産物を積極的に購入することは持続可能な農業や食品安全に配慮した農業を行う生産者や産地を応援することにつながります。
生産者自身がGAPの価値に気づき、リスク管理を行っていき、そういった農産物が消費者の支持を集めることが、今後、日本でGAPがさらに広がるためには不可欠といえるでしょう。


2015年09月30日掲載

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