収量・秀品率低下を招く、だいこんの「キスジノミハムシ」

病害虫・雑草コラム

だいこんの収量や品質の低下を招く重要害虫「キスジノミハムシ」。暖冬の年は害虫全般の早期発生や多発傾向になることが懸念されており、注意が必要なのだそうです。だいこんにおけるキスジノミハムシの発生状況や生態、実際の防除対策などについて、青森県産業技術センター 野菜研究所 病虫部長の新藤潤一さんにお話を伺いました。

青森県のだいこんの生産状況と害虫の発生状況について教えてください。


県内の作付面積や生産量はここ10年ほど横ばいの状況ですが、生産者一人当たりの作付面積は増加傾向にあり、青森は6月から11月まで出荷が続く全国第3位の生産量を誇っています。

重要害虫のキスジノミハムシは、近頃では平成22年から3年間猛暑が続いた年に多発したことから、研究課題として防除対策に取り組んできました。高温・乾燥が顕著な年は多発する傾向にあり、また、前年の秋冬期の気温が高い年も越冬密度が増加し、翌年の発生密度が高まる可能性があるので、細心の注意が必要です。

【キスジノミハムシによる根部への被害】

キスジノミハムシによる根部への被害

キスジノミハムシの特徴について教えてください。


まず、圃場周辺の雑草や土壌の間隙などで越冬した成虫がだいこんの発芽とともに圃場に飛来して、地際に産卵し、ふ化した幼虫が土中に潜ってだいこんの根部を食害します。年間の発生はおよそ2~3回程度です。
青森では3月から8月まで播種が行われ、5月から11月まで収穫が続きます。そのなかでも5~6月に播種をして6~8月に生育期・収穫期を迎える作型では、とりわけキスジノミハムシの発生が多く、適切な防除が必須となります。

【キスジノミハムシ成虫】

キスジノミハムシ成虫

防除が重要な理由について教えてください


特に、播種後2~3週間までの生育初期に根部を幼虫に加害されると、生長が阻害され、肥大に影響し、最終的にはだいこんの収量低下につながります。また、生育期に根部表面を加害されると食痕が残り、外観が劣化するために秀品率や可販果率が低下してしまいます。無防除の場合、青森の夏だいこんでは収量が3割以上低下した例もありました。

幼虫が地上でふ化して地中に潜ってしまうと、茎葉散布剤が届かなくなるので、その前に防除することが重要で、播種時に土壌処理する粒剤と、生育期に使用する乳剤や水和剤などの茎葉散布剤を適切に組み合わせることで、高い防除効果が得られます。

【キスジノミハムシによる根部への被害】

キスジノミハムシ成虫

キスジノミハムシが発生しやすい条件について教えてください。


前年の秋冬期の気温が高いと越冬密度が増加し、春の雪解けが早い年は発生のタイミングも早まります。さらに、夏期の気温が高いほど発生密度が高まる傾向にあります。

昨年は暖冬だったことから、今年の夏はキスジノミハムシの多発生が懸念され、細心の注意を払い防除対策に備えることが大事ですね。

青森ではどのような防除対策が行われていますか。


青森の夏だいこんの慣行防除では、播種時にフォース粒剤などで土壌処理を行い、生育期前半にフォース粒剤とは系統の異なる散布剤を7日間隔で2~3回、生育期後半に10日間隔で2~3回の茎葉散布(水和剤や乳剤など)を行う体系が指導されています。茎葉散布剤は、地上部での成虫の産卵を防ぐため、「播種7~10日後の散布開始」を推奨しています。

播種時の土壌処理剤の効果が甘いと、いくら茎葉散布で地上防除を行っても最終的な被害度が大きくなりがちです。しかし、フォース粒剤は、播種時処理による防除効果が高く、初期のキスジノミハムシの密度を抑えることで、その後の茎葉散布剤の防除効果が活きてくる。私はこうしたキスジノミハムシ防除の試験を以前より担当してきましたが、最も効果が高い土壌処理剤がフォース粒剤でした。

【キスジノミハムシの産下卵】

キスジノミハムシの産下卵

フォース粒剤の処理後、茎葉散布開始のタイミングについて教えてください。


当センターの試験では、フォース粒剤の残効は播種時処理の21日後頃まで確認されています。「じゃあ、茎葉散布の開始は、播種21日以降でもいいのではないか?」という生産者の方もいらっしゃるのですが、実際はもっと早いタイミングでの茎葉散布開始が必要です。なぜならば、地上部ではすでに処理21日後の時点で、成虫の産卵が行われていることが多く、生育期の幼虫密度が高まっており、茎葉散布剤による地上防除で抑えきれずに被害が出てしまうことが多いからです。

そこで当センターでは、生育初期の茎葉散布開始タイミングの比較試験を実施しました。播種7日後・15日後・21日後で比較しましたが、結果は茎葉散布開始のタイミングが早ければ早いほど、防除効果が高まり収量・品質が向上しました。こうした研究の結果から、当センターでは、「播種7~10日後の茎葉散布開始」を推奨しています。

【だいこんのキスジノミハムシに対する防除体系別の被害程度】

だいこんのキスジノミハムシに対する防除体系別の被害程度
害虫の発生状況: 多発生
品種: 夏つかさ
播種: 7月1日
薬剤処理: (播種時)無処理区を除き、フォース粒剤4kg/10aを播溝土壌混和。
(播種後)無処理区および粒剤のみ区を除き、茎葉散布剤(A水和剤1500倍)を100~200L相当量散布。
茎葉散布回数: 播種7日後から茎葉散布開始区…7日間隔7回処理、播種15日後から茎葉散布開始区…7日間隔6回処理、播種21日後から茎葉散布開始区…7日間隔5回処理。
調査方法: 各区から20本を抜き取り、根部の被害度別調査を行い被害度を算出。

フォース粒剤を処理する際の、注意点やポイントはありますか。


防除効果をきちんと発揮させるためにはポイントが2点あります。一つは、きちんと登録上の規定量を処理すること。規定量より少なく処理すると効果不足になります。

もう一つは、播種時処理の土壌深度です。最近の研究でフォース粒剤は土壌の表層にあった方がより効果が高まるということが分かったので、播種深度と同程度の3~5cmに播溝土壌混和処理するのがポイントですね。

フォース粒剤の「生育期処理」の試験をしていただきましたが、結果はいかがでしたか。


2018年から2年間行った夏だいこんのフォース粒剤「生育期処理」試験では、生育期に水和剤や乳剤などの茎葉散布を5回実施する慣行防除体系の中の3回目をフォース粒剤の株元散布に置き換えて実施しました。フォース粒剤は、成虫に対する忌避効果によって、産卵行動を抑制して根部を守るので、生育期の防除が茎葉散布剤のみの慣行防除体系と比較して、気温が高い夏期においても最終的な秀品率や可販果率が向上するという結果が出ています。

また、フォース粒剤は残効が長いので、この試験では、慣行防除と比較して生育期の茎葉散布を1回省略することができました。

【だいこん キスジノミハムシに対する防除効果】

キスジノミハムシに対する防除効果
害虫の発生状況: 甚発生
品種: 献夏37号
区制・面積: 52株/区(=1.2×6m,株間23cm)
播種: 7月10日
処理: (防除体系A)播種時にフォース粒剤 播溝土壌混和4kg/10a+収穫まで7日間隔で慣行散布7回
(防除体系B)防除体系Aの慣行散布3回目をフォース粒剤 株元散布6kg/10aに置換
調査方法: 9月4日(収穫時).各区の根部食害痕数と被害面積率

生産者の方に、あらためてキスジノミハムシ防除のポイントをアドバイスいただけますでしょうか。


キスジノミハムシの成虫は、主にイヌガラシやスカシタゴボウといったアブラナ科雑草でも増殖します。だから、圃場周辺の雑草防除は、だいこんの生育初期の成虫密度を減らすのに有効です。こうした雑草はもちろん、だいこん・キャベツなどアブラナ科野菜の圃場が多い場所では成虫の発生密度が高まるので注意しましょう。

先ほども申し上げましたように、播種時のフォース粒剤の処理は規定量をしっかりと守ってください。そして茎葉散布は、「播種7~10日後に開始」が重要です。その後、生育期前半は7日間隔、生育期後半は発生状況に応じて7~10日間隔で茎葉散布(乳剤や水和剤、粒剤などの散布剤)の体系防除を行うのがポイントですね。

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